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オッサン全力疾走論

「でも、本気じゃなかったね」

 

 

私の娘は、そう言って結んだ。

 

劇団航海記 第11回公演

『ケ・セラ・セラナイ』を観劇した彼女の感想をふと、1年近くが経過しようという先日にふと、訊いてみたのだ。

 

 

「みんなが、真面目に取り組んでると思った。真剣にやっていた…」

娘は当時を思い起こしながらそう言い、冒頭の言葉で結んだのだった。

 

その言葉は、私の心に突き刺さった。同時に、すとんと落ちたような気もした。

 

 

真面目な性格には、好感が持てる。

真剣に取り組んでいたら、頑張っているなと思う。

 

でも、本気を出せていなかったのなら…

 

 

突然だが今ここに、名もなき一人のオッサンを登場させようと思う。

 

「はあ?(;゚Д゚)」

 

あまりにも唐突で申し訳ないが、まあお付き合いいただければ幸いです。

 

 

さてこのオッサン、歳は40台後半といったところだ。

中小企業と括られる工場の社員で、口数の少ない、地味だが仕事ぶりの真面目などこにでもいるオッサンである。

職場内での印象は、まあ可もなく不可もなし。同僚から見たオッサンの印象は「真面目」「物静か」「温厚」「目立たない」…そんなワードが並ぶだろう。

 

職場と家とを往復の毎日を過ごすオッサン。

しかしある日、町内会で今度の日曜日に行われる学区民運動会参加願いの回覧板が回ってくる。

そんなものは毎年スルーをしていたオッサンだが、今年は特に人手不足で参加人数が覚束ない事情もあり、周囲の無言の圧力も無視できないレベルになっている。

 

やむなく参加を表明するオッサン。

参加種目は「パン食い競争」である。

 

 

さて、ここまでは良いだろうか?

 

 

「良いも悪いも判断しかねる」というのが大方のアンサーだと思うが、とりあえず皆様がオッサンの人物とその状況を把握したものとみなして、話を進めてゆく。

 

 

オッサンは運動会に参加する。

そして、パン食い競争に出場する。

 

オッサンは真面目に走る。

性格的にも手は抜けないし、周りの目があるから真面目に走る。それに万が一転んでケガでもしてしまったら、明日の仕事に差し支えてしまうからだ。

 

真面目に走っているオッサンを見て、周りの人はどう思うだろうか。

「ああ、頑張っているなあ」

「やっぱり、真面目だなあ」

 

オッサンを知る人は、きっとそんなふうに思うだろう。

そして、それ以上は何も思わない。ふだん真面目な人が、違うことを真面目にしているだけだから。

 

 

…じゃあ、もしも…もしもだ。

 

このオッサンが全力で走っていたら、どうだ?

 

自分の性格も、周りの視線も、明日の仕事のことも考えていない。

ちぎれんばかりに手を振り、足を踏み出し、折れるほどに歯を食いしばり、一挙手一頭足に魂を込めて本気で疾走していたら、どうだろうか。

 

 

表面的にはどちらも変わらず、オッサンが走っているだけだ。

 

だが、そこにドラマが生まれると、私は信じる。

 

 

いい歳した真面目なオッサンが、なりふり構わず本気を出している。

人々は思うだろう。

 

「オッサンはなぜ、本気で走るのか?」

 

もしかしたら、オッサンは過去に将来を嘱望された天才アスリートであり、訳あってその道を断念したものの、今回のパン食い競争で忘れかけていた心の導火線に火が灯ったのかも知れない。

あるいは、オッサンには実は生き別れとなった息子がいて、その息子が偶然この運動会に来ていると知ったオッサンが、何もしてやれなかった息子にせめてもの雄姿を見せようとしているのかも知れない。

それともオッサンは我が国の特殊エージェントで、吊るされたパンに超小型高性能爆弾が仕込まれていることを司令部から伝えられているためにその力を開放しているのかも知れない。

 

 

理由なんてなんでもいいのだ。物語は、それを目の当たりにした人の数だけ生まれることになる!!

 

 

「全力疾走のオッサンを見て初めて、ある人は驚愕し、ある人は笑い転げ、ある人は呆れてため息をつく」

 

それは言い換えれば、こうだ!

 

「本気の人を見て初めて、見た人の心は動かされる」

 

のだ!!

 

 

はあ…、はあ…。

 

 

 

 

「なるほどね。でも実際にそんなタイミングよく運動会は無いし、そのオッサンみたいに人が本気を出せるシチュエーションなんてそうそうあるわけじゃだから演劇があるじゃーーーーーーーーんっ!!!!!(`・д・´)9m ビシッ!!

 

 

はあ…、はあ…、はあ…。

 

 

 

演劇に関わる年数を経るごとに、自分は変に配分したり、逆算したり、マアなんとかなるだろと楽観視したり、できるようになった。できるようになってしまったと思う。

 

真面目にやってはいた。真剣にやってもいた。

それは、舞台を観た自分の娘にもちゃんと伝わっていた。

 

伝わったからこそ、彼女はもうひとつ見抜いたのだ。

 

「でも、本気じゃなかったね」

 

 

 

 

 

劇団航海記 第12回公演

「Elegy of assassin」

 

 

 

本気をお見せします。

 

 

 

渡邉でした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

 

 

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